コケ発生のメカニズム

コケ発生のメカニズムについて
 コケの発生には様々な要素が関係しており、単純に水替えすれば全てが排除・解決できるというものではないということはご承知のとおりです。
 ここでは水槽内で起こる様々な物質変化やその役割、そしてそれらがどのようにコケ発生の元になっているのかを探りながら、解決への糸口になればと考え、ご参考までに明記しました。
 初心者の方には、言ってることが難しかったり、理解できない場合があると思いますが、その際はこのページを読み飛ばして頂いても結構です。


水槽内で起こっていること

 閉鎖的な水域である水槽内では、その中に存在する様々な物質が時節的に変化し、その構成により時には魚や水草にとって有害なもの、或いは無害なもの、或いは有益なものになります。
 基本的に熱帯魚・水草の育成にはエサや肥料・ビタミンなど人為的に様々な物質を含んだものがほぼ毎日添加され、或いは水替え等によって排出されるということが頻繁に行われるため、常に同じような物質的安定環境を保つことは困難です。
 物質が増加し、いつの間にかコケだらけになってしまったり、それを減らすために水替えしたのに急に調子が悪くなったなどということが起こるのはこのためです。何事もバランスが大切であると言うことでしょうか・・・。
(自然の川は一方通行に流れ、つまり同じ物質環境が繰り返され、常に変わっているようで変わっていないところです。だから魚や水草は安定的に生きていけるのでしょう)

添加したエサや肥料の行方

<リン酸>
 ほぼ毎日魚に与えているエサには多くのリン酸が含まれており、最終的に飼育水中の鉄やアルミニウムといったものと結合し、不溶性の物質に変化します。これが進み、固定化され、水草などが吸収できない状態が続くと、水草の古い葉から順番に欠乏症状が現れます。
 しかしながら、一般的に水草の特徴として、体内の古い含有リン酸分を使いまわし、新しく若い葉に移行させることができるので、即効的に枯れていくことは少ないようですが、古い葉が枯れていったり、根の生長に影響が出ているようならリン酸が原因の1つであると判断できるでしょう。また、過剰な投与はかえってコケの栄養源になりがちなので、注意が必要です。

<塩類>
 エサや肥料の中には、魚や水草、バクテリアなどによって始めは各々の直接的な栄養素として吸収されたり、エネルギーとして利用されるものがありますが、必要のないものは排泄または利用されず水槽内に溜まっていきます。
 その殆どは何かしらの化学的な塩類であり、主に硝酸カルシウム、硫酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどの物質に変化しています。
 これらはろ過材や底床内の、水流や酸素の少ない嫌気層部分に溜まる傾向にあり、水流や表面張力・毛細管現象などにより徐々に好気層に移り、酸素を利用して少量ながらバクテリアや水草が吸収していきます。そして過剰なものがコケの栄養素となるわけです。

 ここであげる塩基性の硫酸イオン(SO4 2-)は硫酸アンモニウムや硫酸カリウムなどの塩基肥料分から出来、嫌気層部分のバクテリアの働きにより硫化水素(有害)に還元されます。仮に水槽内に二価鉄が多くあれば硫化鉄となり無害化するのですが、少ない場合は水上に出て、空気(酸素)に触れると、硫黄酸化バクテリアの働きにより、硝酸に変えられpHが極端に低下します。

 飼育中期以降の古い飼育水のままの場合に、ある時ド~ンとpHが落ちるのはこのためです。このような極端に低いpHに耐えられない生体、pHショックに弱い生体はこの酸化作用が起こった途端に死滅します。水替えを怠るとこのようなことが起こりますので、十分ご注意ください。

<有機酸>
 水草用として添加される有機肥料分が、バクテリアにより分解される過程で発生するものの1つで、主にメタン(CH4)、炭酸ガス(CO2)、水素(H2)、酸素(O2)になり、ろ過材や底床土から水中或いは空気中に放出されます。
 これらは好気層のバクテリアの活動よりも嫌気層におけるバクテリアの活動が勝る場合により発生しやすいため、その嫌気層部分は多いと、水草の特に根の育成に影響が出ます。
 また、メタンが発生するということは何らかの悪臭がしているはずなので、飼育水が臭っている場合は有機肥料分の添加を抑えるなどの対処が必要です。

<硝酸塩>
 エサを食べた後の魚のフン、死骸、枯れた水草などがバクテリアにより分解される過程で発生するものの1つで、その分解途中で発生するアンモニウムイオンや亜硝酸イオンに比べると毒性は低いですが、過剰になると細胞の浸透圧差が縮まり、特に水草の養分の吸収が阻害される傾向が現れます。
 これは水草自身の浸透圧より水槽内の水の浸透圧が高くなりすぎて、体内の水分が奪われ、脱水症状になりしおれるように枯れていくことから判断出来ると思います。また、同様の症状にカルシウム分の過剰症もあげられます。単純に水替えをして排出していく方法がベストかと思われますが、脱窒作用によっても可能です。

 ところで、この硝酸イオンは植物が光合成する際に使われ、エネルギーを貯蔵・伝達するATP(アデノシン3リン酸)により細胞内でNO3-、NO2-、NH3といわゆる浄化作用とは逆の過程をたどり、最終的にはアミノ酸の合成に利用される大切な物質です。
 各工程には硝酸還元酵素が関係しており、硝酸イオンと光エネルギーによって誘導され、アンモニアの存在で抑制されます。このような同化還元作用の頻繁な水草ほど硝酸塩の蓄積に強い丈夫な水草と言われています。

<有機酸とコケの発生の関係>
 これまで言及してきたことを考慮すると、嫌気層が多ければ多いほど、つまりろ過材や底床土が細かすぎたり目詰まりを起こしやすい状況にあればあるほど、バクテリアは有機物を作れなくなるため減少していきます。しかし、嫌気層が全くなければ、水草が吸収出来る物質構造にはならないので、少なからず必要なことは間違いありません。
 底面ろ過が主流だった時代に水草が上手く育たなかったことからもこれは理解できます。(別に、底面用の育成方法はありますが・・・)
 嫌気層では主に発酵系の反応が行われており、それによって出来た物質で、分解しきれず余ったものは細胞外に放出されます。嫌気層ではこれらの余った物質を分解できる適当なバクテリアが極端に少ないため、先に述べた水流や毛細管現象によって好気層へと運ばれていきます。
 このような状況で好気性バクテリアが行う酸素を使った呼吸系の反応がより進んでいれば、水草などの好気性植物の吸収できる形に分解してくれるので、その吸収バランスが整っていれば有機物の蓄積は起こらず、かえって有効な栄養源になります。
 コケや藍藻の発生はこれらのバランスが崩れていて、分解されず過剰に存在する時に起こっていると言っても過言ではありません。ろ過材の洗浄・交換やバクテリアの重要性が強く言われているのも肯けるのではないでしょうか。
 水槽内で期せずして実現する本当の自然の摂理(ネイチャーなアクアリウム)は、このような目に見えないところで起こっているのかもしれません。